ラブ電波



 あなたこそが世界で唯一わたしの誇り。
 わたしの半身。
 わたしの愛したひと。





 絵の具のにおい。
「先輩……先輩には一生わからないだろうさ。やりたくてもやれない辛さ」
「そうね」
「動かないんだよ。体も、心も。いくら寝ても眠い。休んでも休んでも全然足りない。力が、素通りしていく。こういう感覚を……先輩は……知っているのかもしれないな。でも、克服した。それも、かなり荒っぽいやりかたで」
「そうね」
「僕には今、『完全に必要としている何か』が存在していないんだ。ある部分では必要だと思っていても、別の面では疎ましい、そういう要素に囲まれて暮らしている。まるで、ああ……そうだな、どう例えていいのかわからないけど……走れない。アクセルとブレーキを同時に力いっぱい踏み込んだらどうなると思う?
 いや……すまない。僕を嫌いになったかい? 少なくとも僕は、何か言葉を発するたびに自分のことが嫌になる。ばかばかしくて笑えてくる」
「そう、ね」
「……何だよ、少しはこっち見ろよ!」
 少女がじっと見つめる。絵筆を置き、立ち上がって、両手で頬を包み込んで、
「男の子って、可愛い。
 一人で勘違いして、焦って、怒って、結論出して……。
 安心して。私はキミを嫌いになったりはしないから。いい? キミはまだ、私のことを軽く見てる。わかってない。でも、少しでもわかって欲しいから、お話してる。
 あのね。
 キミは私の一番なの。世界で、誰よりも……そこだけは、安心して……」
 少年がうつむき歯を食いしばる。
「なあ、助けてくれよ」
「それは、無理」
「どうしてだよ!」
「二人で、追いかけることは、たぶん、できないから。ごめんね……私は、それの、やり方を知らない。わからない。助けてあげられない。
 私にできることは、こうやって――」





「死ねばいいじゃない」
 と僕の彼女は言った。
 もっともだ、と思った。

 問題はどうやって死ぬかだ。死ぬにしてもスタイルがいる。それを見せつけたいのか、誰にも知られないまま姿を消したいのか。まずはそこから始めなければならない。僕は別に新聞の一面は飾りたくないし週刊誌にネタを提供する気もない。ただ彼女にだけ伝わればいい。僕が確かに死んだと。理想的なのは、人気がないところで彼女に殺してもらうか、あるいは僕が自決するかだ。僕は彼女が好きだ。好きだから彼女に殺して欲しいと思うし、そんなことをさせて心に重荷を背負わせるのも嫌だとも思う。
「僕を殺してくれないか」
「なんで」
「好きだから」
「わかった。わたしも好きだから、殺してあげる」
 彼女に感謝した。
 彼女の手首を握り、任侠ものの映画に出てきそうな小刀を渡し、僕も同じものを逆手に握る。青い血管が見える。
「いいよ」
 容赦しない。縦と横に切り裂いて、最後に思い切り突き刺す。こうまでしないと、この方法では死ねないらしい。彼女も同様に僕の手首をめった斬りにした。
 同時に言った。
『ありがとう』
 と。





 あなたを世界の終わりで待つことができたなら、あなたと世界の果てまで行けるのならば。

 わたしに信じる力をください。
 あなたを信じる力をください。
 言葉に力を与えてください。
 あなたを好きにならせてください。
 わたしはあなたを好きになりたい。
 わたしはもう充分に頑張ったでしょう?
 これ以上あなたを好きになれません。
 次はあなたの番です。
 他の何もいらなくなるくらい、他の誰を犠牲にしても厭わない。
 その証をわたしにください。

 さあ!






 退廃的で痛々しくて破滅的で綺麗で汚くて温かくて熱くて苦しくて楽しくて嬉しくて恥ずかしくて幸せで。
 色んなセックスを書きたい。

 男の子と女の子と。恋愛の占めるバランスと。死にたくなるほどの。本当に死んじゃうくらいの。背徳的な。してあげたいこととして欲しいことと。どこまでいけば「世界でいちばん」になるのか、とか。病気との境目。論理の必要性。隠すもの。顕すもの。

 こんなことばっかり考えてるわけですが。
 深夜に書くことじゃねえよ。





「あなたは私を信じてない」
「きみは僕が信じられない」

「私はあなたを愛してる」
「僕は君を愛してる」

「あなたは私を殺したい」
「きみは僕が心底憎い」

「私はあなたを信じている」
「僕はきみを信じている」

 この世で最も高い塔から落下。
 重力による加速は空気抵抗をものともしない。



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