マウス モーニング 試験



 ここはマウスの耐久試験の研究所である。
 商品としてほぼ完成されたマウスの最終調整のため、様々なテストが行われる。
 現場に見学に来ている少女に、所長が自ら説明を行っていた。
「この工程は何をテストしているんですか?」
 少女はメモを手に訊く。
「ああ、ここは落下耐久試験を行っているんだよ」
「へえ、マウスにも落下試験なんてあるんですか」
「もちろんだとも。千回以上、十メートルの高さから落として、それでも壊れないマウスを作らなきゃならないんだ」
「丈夫なんですね」
「子供達の安全のためだからな」
「よりよいおもちゃのためですよね」
 二人は次のテスト現場に行った。
「この工程は何をテストしているんですか?」
「うむ。ここは走行距離試験だよ」
「マウスなのに自動車みたいですね」
「そうだな。時速140キロメートルで、距離三万キロをへたらないで走れなきゃならないからね」
「マウスって奥が深いですね」
「だが使いこなせればこの上なく便利な乗り物だ」
「わたし、学校を出たら免許取りますよ」
「ああ、私からもお勧めするよ」
 二人は次のテスト現場に行った。
 そこは、水族館のように、ガラス張りの窓の向こうが水で満たされていた。
「この工程は……耐水試験ですか?」
「そう。最近ではマウスを水中で使う人も多いからね」
「お風呂とか、ですか?」
「何を言ってるの。お風呂が壊れちゃうよ。海女や漁師といった職業の方に需要があるね」
「へえ、そうなんですか」
 二人は次のテスト現場に行った。
「ここはサイキック耐久試験ですね」
「その通り。知っての通り、近年は超能力による犯罪が増えているからね。対応は必須と言える」
 窓の向こうでは、スーツ姿の男達がマウスに手をかざし気合を送っている。そのほとんどに変化はないが、稀に破裂して赤い煙を噴出すマウスがある。超能力で破壊されたのだ。
 二人は次のテスト現場に行った。
「これはマウスの知能テストですね」
「うむ。レベル6の迷路を五分以内にクリアできなければ商品としては成り立たないから」
「そうですね。使いにくくなりますもんね」
「最も進歩が著しい分野だよ、知能は」


 見学を終えて、少女は満足そうな顔をしていた。
「マウスって本当に便利ですね」
「今や生活になくてはならないものだよ」
「だから、こうして次々と新製品が作られていくんですね」
 そして二人は、マウスのモーニングセットをほおばるのだった。



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