仮



 一本のビデオテープがある。
 ラベルがない。シールは全部剥がされている。メーカー名もない。
 ビデオテープである、という情報以外一切が削り取られていた。
 ならば、再生してみよう。
 数秒間の砂嵐の後、画面が切り替わる。
 何時。もう、ずっと前。
 どこか。場末のライブハウス。
 誰か。……懐かしい、とても懐かしい、彼ら。

「どーもーどどめうにゅうでーす」
「どーもーレインボーうにゅうでーす」

 古びたブラウン管に、確かに映るあの日。
 二時間ぎりぎりいっぱいに詰め込まれた芸の数々。
 呆けたように見つめ、そしてテープが終わる。
 勝手に巻き戻され、ビデオデッキが沈黙した。

 窓から外を見る。

 彼らは今どうしているだろうか。
 ここを去ってからずいぶん経つが元気だろうか。
 芸を、どこかの誰かに芸を披露しているのだろうか……。

 もういない。戻ってこない、二人がいた日々。
 誰も覚えていない、でもいつかきっと思い出す。

 今、こんなふうに。



 戻れない